舞台がモチーフの短編集。
小川洋子らしく童話のような優しいでも時折グロで幻想的だったり現実的だったりする話なのだが、読んだあとにちょっと胸が痛くなるようなノスタルジーを感じる。
読んでいるとすごく静かな世界に入っていく感じがする。
各編のタイトルのつけ方も絶妙だ。
「いけにえを運ぶ犬」はストラビンスキーの春の祭典をコンサートで聴きながら音楽のストーリーと自分の幼い頃の忘れられない思い出が絡められながら進む。移動本屋のおじさんと屋台を運ぶ大型犬。渡り鳥の本に魅せられ思い詰めてこっそりと持ち帰ろうとする主人公だったが犬に見られてそっと戻す。
子供達が犬を構っても犬は嫌がる様子もなく、おじさんもお客さんにはどんな安い本でも丁寧に紙袋にいれ皺を伸ばし捧げ持つように手渡す。
ある日たくさんの枇杷を犬に与えたらそれ以来本屋は来なくなり自分の与えた枇杷の種が腸に詰まって犬が死んでしまったのではと考える。
どの話もすっきり終わるというよりちょっと哀しい余韻が残る。