「容疑者Xの献身」 東野圭吾

容疑者Xの献身
家計のために高校教師となったもと天才数学者が、隣の部屋に住む女性に恋をする。彼女が殺人事件を起こしてしまい、彼女とその娘を守るためにすべての知能を駆使して助けようと隠蔽工作をする。完璧と思われた計画だったが、大学時代の友人でライバルだった物理学者がふとした偶然で現れてから思いがけない方向に・・・


警察の手がだんだんと迫り、読みながら「ばれる〜、捕まる〜」とドキドキしっぱなしだった。


この本の見所はかつて同じ大学で天才と呼ばれお互いを認め合った数学者と物理学者の二人が事件をめぐって、片方が謎をかけ、片方は解こうとする攻防だ。読者も騙される展開になっているのだが、どうしてここまで家族でも恋人でもない相手にできるのかが不思議に思われるのだが、その理由も説明されていて私はなんとなく納得できる気がした。「人は時に、健気に生きているだけで、誰かを救っていることがある。」


最後はとても哀しく悲劇的な結末が待っているのだが、殺人の隠蔽工作に関わった数学者石神はその間思う存分頭を使い、しかも誰かのために生きていたという事実は彼にとってはかけがえのない瞬間だったろうし、「生きている」と実感できた時間だったろうことはせめてもの幸せだ。