「無境界家族」森巣博

著者は博打打、奥さんはイギリス人の学者、息子は数学の天才という一家の物語。息子は不登校児だが、ポリシーがあったり、トラウマがあったりするわけではないらしく、突然自分で弁当を作って機嫌よく出かけたりする。「したいことだけすればいい。やりたくないことはやりたくないことはしなくていい」が教育(ならびに自分)のポリシーの父。
奥さんの研究休暇で半年掛けて世界一周するのに、父子も付いていくことにした。そのことを学校に言いに行くと、「まだ4年生だし大事な時期に半年も学校に行かないのは・・」と先生に言われるが、親と一緒に旅行する以上の教育はないというと納得。半年分の学習帳を時間を掛けて作ってくれた親切で、しかも思い切りのいい先生。半年後まっさらなノートを持って帰っても小言も言わない器の大きい先生だったのだが、こんな先生はちゃんと誰かに評価されていて他の学校の校長に栄転をしたそうだ。
息子は才能の頭角を表し、次々と上の学校に編入していく。その際シドニーに二人で住む家を博打友達の不動産会社社長の女性が世話をしてくれた。その物件に車での行き方を説明してくれるのが「シドニーブリッジを渡ったら、最初のインターセクションでて、あとはメルセデスの跡をつけてるとヴォウクルーズに着くから」というアバウトなもの。その物件は高級住宅街にあるのだが、さすがにそんな説明ではいけないと思いながらも、そのとおりにしたら本当についた、なんと適切な説明だったかと恥じ入る著者。
以前イギリスにも住んでいた彼らがオーストラリアに住むことになったのは、奥さんが「個人に対する国家の重みとか管理とかでは、オーストラリアが一番軽そうね」と言ったことがキッカケだったのだが、それを実証する出来事がこの本にはちらちらと出てくる。いろいろと融通が利いていい。連邦議事堂で上院外交問題特別委員会の証言をする妻の傍聴に行こうとする夫が、「ドレスコードはゴムぞうりとTシャツ」と思い出し安心して向かうというのがある。オーストラリアって素敵な国ね。