本の著者紹介欄には「喪失感や欠落感を抱えながら生きる
ごく普通の人たちを主人公に、その日常が放つかけがえのない光を
繊細に紡ぎ続けている」とあったが、まさにその通りの感想を持つ
お話だった。
主人公の女の子は未熟児で生まれながらも父母の意志で
保育器に入れられなかった過去があり心の中にその記憶のこだわりがある。
自分は世間とうまく付き合っていけてないような違和感を感じているが
ヘルパーで訪れたある家族との出会いで、まるで息をし始めるように
何かが穏やかに変わっていく。
介護を受ける「先生」と呼ばれているおじいさんは認知症の症状がでているが
彼がしっかりしていたり、危うかったりを繰り返すのだが、
その都度自分も主人公たちと同じようにほっとしたり、悲しんだりしてしまった。
世の中はだれにとっても思うようにはいかないが、閉塞感の中で
「手を動かすだけで、心が動く」というセリフがあり、
「八重の桜」でも同様のセリフがあったことを思い出す。
心が動けない時には手を動かすことが、動き出すきっかけになるのだな。
途中ちょっと退屈に感じることもあったが、読後感はとても穏やかで
うれしい気持ちになる本だった。