「風に顔をあげて」 平安寿子

風に顔をあげて

風に顔をあげて


25歳のフリーター風実は、自分の仕事に行き詰まりを感じ
行きかたにも疑問を持ち、ボクサーを目指していた彼は
芽が出ないままやめようとしていたり、高校生の弟が
突然ゲイとカミングアウトしたり、自分の悩みだけではなく
みんなの悩みにまで悩まされている。


彼女があちこちにぶつかりながら、反面教師になる
嫌いな母親と対峙したり、弟や家出した父親など
色々な人の生き方に接して、最後には自分の生き方に
希望と自信を見つけていく。


事件らしい事件が起きるわけではないが、いかにも身近に
ありそうで生き方に迷う人々にも希望が持てるお話だった。


彼女が飲み友達でいつも陽気な大人のサラリーマン小池さんと
飲みにいき、自分の愚痴を聞いてもらおうとしたときに
逆に出世したためリストラする立場になり、すっかりと
人が変わってしまった彼に驚くシーンで
「落ち込んでいる人って弱くない。マイナスのパワーに満ちている」
と気付き、返って苦い気持ちになる。
やはりマイナスパワーは強力なので近づかないほうがいいのだなと
今更ながらに私自身が気付いた気がした。


弟が尊敬するゲイバーの経営者に紹介するため、風実をお店に
連れて行くシーンでは、オーナーの包容力のある穏やかな大人の性格もあり
すごく癒される空間になっていて、こんなお店があったら
ぜひとも行ってみたいと思うほどだった。閉じた空間というのは
その身内意識がお互いを親密にするからますます快適なんだろうな。
もちろんそんなに色々と簡単ではないんだろうが。