「夜市」 恒川光太郎

夜市
子供の頃紛れ込んだ夜市、魑魅魍魎の集まるそこではあらゆるものが売っている。祐司はそこで野球の才能と引き換えに弟を売ってしまった。大人になりもう一度夜市に行く彼を待っていたものは・・・

ホラー大賞作品らしいが、ファンタジックノベルといった感じで、ちょっと怖い童話のようだ。子供だけで夜市で迷子になった心細い様子もよく出ている。大人になってから夜市で出会う何でも切れる刀を買う老紳士が大切な役割を演じている。


迷子になった私に見知らぬおばさんが教えてくれた帰る道は、いまどき珍しい未舗装で、途中電信柱もポストもなく、どの家も玄関を道側に向けていない。夢中で歩くと家の近くの風景が見え、不思議な思いがしながらも無事に家にたどり着く。12歳になった私は友人のカズキともう一度その道を探して行ってみたが、その道から出られなくなってしまう「風の古道」


このお話も夏の午後の昼下がりのようなノスタルジーやちょっと淋しくなる静けさを感じる。古道は本来人間が行きかう道ではないのだが、途中で出会うレンという青年は人間だが、古道で産み落とされたため、古道からは出られない。彼にも悲しい歴史があるのだが、これもちょっと怖い童話のような読後感だ。両方とも懐かしいような気分になるお話で他の作品も読みたくなる。