「死神の精度」 伊坂幸太郎

死神の精度
死神は自分の担当の人間が死に値するか(「可」)、または「見送る」かを一週間以内に審査するために人間界に送り込まれる。何人かいて、たまに同僚を人間界で見かけることがあり、みな音楽好きのようで、CD屋に出没することが多い。

苦情係の女性にしつこく名指して電話をかけて、何かと付きまとう男の話「死神の精度」、昔かたぎのやくざの男を慕いながらも組織との狭間で裏切らなければならない男の「死神と藤田」、吹雪の洋館で起こる連続殺人事件の話「吹雪に死神」、かっこいい容姿を隠したくてわざとダサい眼鏡をかける男が片思いをする「恋愛で死神」、母親を殺した少年が子供の頃誘拐されたときに救ってくれた誘拐犯の一人を訪ねる「旅路を死神」、そして後日談的「死神対老女」。

伊坂幸太郎は人間のちょっと可愛い描写が上手いなと思う。「死神と藤田」で、藤田の舎弟で藤田を見張っている阿久津が、出かける藤田に「親に逃げらる子供のように慌てた」り、「聖書の文言に従うかのように、うやうやしじゅ後ろへ下がった」り、「威勢のいい、行儀正しい学生のよう」に飛び出したり。

どの話も面白いが私は「藤田」「恋愛」「旅路」が特に気に入った。
悲しい結末だったり、ちょっと希望の持てる結末だったり、さまざまだが「ちょっといい」話が必ず入っている。「恋愛で死神」は見た目のすごくいい男の子が女の子ときちんと恋愛できずに悩んで、ある日片思いを成就して明るい未来が見えかけたときに事件が起きる。その後の彼女と死神の会話もいい。死神は人間ではないので、はからずもボケてしまうことがしばしばあり、そのとぼけ具合が物語の味を増している。