「行動経済学が最強の学問である」 相良奈美香

 

この本を読み始めててっきり著者は男性かと思った。ロジカルな説明の仕方もさることながら自分アピールがちょこちょこ入っているところ。女性だとそういう面はあまり出てこないことが多いので。優秀な女性がアメリカで活躍していると知って嬉しく思う。

 

行動経済学には以前から興味があったので内容的には見知ったものも多かった。

現状維持バイアスは私だけではなく、人間は皆そうと聞いて安心する。

 

脳の思考モードはシステム1(直感)とシステム2(論理的)があるそうで

疲れていたり、忙しかったり、情報が多すぎると人はシステム1で意思決定しがち

だという。体にいいものを食べるべきと思ってもジャンクフードを選んでしまうなど。

システム2のエンジンとも言える「注意力」は忙しいと危険に晒されている。

「みんなのアテンションを集めるということは高度情報化社会では価値を生む」

システム2を起動するために「引っかかり」を作ることが有用、あえて読みにくいフォントやポイントを使うという例が上がっていたが、これは自分の仕事でも一箇所だけ手書きを

入れた文書を配るなどしていたが理論的に正しかったのだと確認する。

 

「機会コスト」の説明で上手くいっていないことを継続するエネルギーやコストを

別のところに回したら新たな機会が生まれるという。サンクコストだけでなく

機会コストも同時に起こる場面が多いと思う。転職などの例が出ていたが

ビジネスだけでなくプライベートでも適用できる法則だ。

 

マーケティングリサーチについても興味深かった。マックのケースが紹介されていたが

顧客はアンケートに答える時にはシステム2で論理的になっていることが多いので

回答を鵜呑みにすると必ずしも売り上げに貢献しない。例えば健康的なサラダなどを

入れるべきと回答しておきながら実際にあったら買うのはビックマックみたいな・・

だからアンケートだけに頼るのではなく「観察」することが何より大切で

人間とは非合理的なものだとわかることでより適切な意思決定ができるという。

 

交渉では「小さなお願いから始めよ」(その後もう少し大きいお願いに進める)

日数を見積る時には人間は甘く見積りがちなので最悪の場合の日数の見積りが現実に近くなる、人は楽しいことも嫌なこともすぐに慣れてくる、インタビューなどで選ばれたかったら最後、選ばれたくなかった真ん中あたりが有利、どうでもいい選択に時間をかけず適当に決める

などなど薄々わかっていることもあれば、「へ〜」ということもあり興味深い。

 

誰かに何かを頼むときには理由を添えるだけで受け入れてもらえる確率が上がるというのも

不思議だった。ただ頼むよりも「急いでいるから」列に割り込みさせてなど

理由と言える?って理由でも聞いてもらえるそうでこれは仕事でも使える。

 

「自律性バイアス」という自分が決定したと思わせるテクも。

仕事を頼むのも「手伝ってもらっていい?」というよりも「手伝ってもらいたいんだけど

AとBどっちがいい?」と言ったり、顧客に「この手順を踏まなければ手続きできません」というよりも「あなたの口座認証するためにお手伝いさせてください」というと顧客の評価が

大きく変わるという。「お手伝いをさせてください」がキーらしい。

また顧客にはかかった時間が長いほど価値があると認識する癖があるというのも

同じ仕事でももたもたやっていた人の方がお客様に感謝されたというのを現実でも

見ていたのでなるほどと。

 

喜怒哀楽の大きな感情ではなくちょっとしたポジティブやネガティブの感情の影響をアフェクトというらしいが、これがかなり自分への影響が大きいらしい。

楽しかった旅行の写真を会社のデスクに飾る、使いやすい上質なペンで契約書にサインする、

いいイメージを思い浮かべるなどしていい気分になる、大好きなコーヒーを飲み

一息つくなどなど。そういえば私も筆記具のいいものを使って気分を上げるということを以前からやっていたな。

じゃあネガティブアフェクトの場合はどうするか?頭の中にネガティブアフェクトがあると認識し、理由を探り、その内容をよく転換できるように考える。ミスをしたとしても勉強になったと考えるなど。

 

「不確実性」がとてもネガティヴか感情を生み出すそうだ。人間は実際に悪い結果であるよりも「悪い結果になるかもしれない」と思って不確実なままの状態の方が心理的負担が大きいらしい。

ぐずぐず悩むよりやるべきことをやったら意識を切り替え気分転換が理想とのこと。

 

女性リーダーなどでも「見慣れない」ことを人はリスクととらえ不安に感じる。優秀な人でも本人も躊躇したりする。Diversity, Equity, Inclusionの概念のためにはこういう認知の癖を認識することも大切だ。