「不時着する流星たち」 小川洋子

 

 

不時着する流星たち

不時着する流星たち

 

 実在の人物をモチーフにした短編集。

グレン・グールドも入っていたので興味をもって読み始めたのだが

この本では私好きする話がないと読み進んでいたが、

「肉詰めピーマンとマットレス」は最初から最後まで

ノスタルジックで心がじんとしびれるような話だった。

 

主人公の女性が息子の住むスペインを訪れる話。

子供だと思っていた彼はそんなに長くいるわけでもないのに

現地の言葉も繰り、何も知らない母のために現地の手引きを

手作りで書いてくれておりそのやさしさにも涙。

その大切にしていた手引きを近所でなくし慌てて探しにいくが

見つからない。

回想で子供時代に幼稚園のお迎えが遅れた時に

「おめめに、嵐がきたよ」と母の顔を見るなり目じりにたまった

涙を震わせ濡れたまつ毛で瞬きをしたという様子も

その描写だけですっかり母の気分で涙。

 

大きな事件がなく、淡々と日常の風景が描かれているのだが

ずっと肌触りのいい柔らかい毛布に包まれているような

気分になる話だった。