「切羽へ」井上荒野

切羽へ

切羽へ


九州あたりの小さな島で養護教諭をするセイは、同じ島出身の
画家の夫と静かに満ち足りた生活をしている。
その島に都会から若い男性教師がやってくる。
夫との生活に満たされているのに、彼にどうしようもなく
目を奪われ、惹かれていく。

セイは夫を深く愛し、また愛されている。
夫婦でこんな風に愛し合いされは珍しく感じるほどだ。
その一方で都会から来た若い男にも惹かれており、
彼も彼女に惹かれていることは明らかだ。
何か起きるわけではないが、たんたんと危うい関係や
感情を描いているのが、かえって緊張する。

父の代から付き合いのある近所のおばあさんがだんだんと
弱っていき、入院し、見取るシーンもいい。
大きな事件が起きるわけでもない日常の自分にとっては
大きな事件が大切に描かれている感じだ。

濃厚ではないのに、全編に大人のエロスが漂っている。
セイ夫婦が回りの目からあきらかにセックスをしている2人と
思われている様も(夫婦はセックスレスになりがちだろうに)
近所の人にからかわれたりするシーンでむしろ新鮮に思った。