「火の粉」雫井脩介

火の粉

火の粉


裁判官の勲は親子三人を惨殺した容疑の掛けられた武内の
裁判を担当する。容疑者の武内は資産家で生活に困っておらず
見た目も穏やかそうな紳士然とした男で、相手家族とも
親しくしていたが、プレゼントしたネクタイを相手が
していなかったので裏切られた気分がして殺したという。
証拠も甘く、自白も強要された冤罪事件の可能性が高く
勲は無罪と判定した。


数年後裁判官を退職して大学で教鞭をとる勲のもとに
訪ねてきた武内は、乞われるまま過去の冤罪事件について
勲の生徒達に話をしてくれたりした。
そのときに引越しをして家を買った話を何気なくしたら
しばらくして隣に引っ越してきたのは武内だった。


介護の必要な寝たきりの母、家のことをしている妻、、
ぷー太郎だったが今は弁護士を目指して勉強中の俊郎、
介護も手伝い小さい子供を育てる嫁の雪見、
たまに訪れては母の介護が行き届いてないと
愚痴をこぼす姉。

とても思いやりのあるすばらしい隣人のはずだった
武内がやってきてから家族の崩壊が始まった。


いや〜、怖かった。
日常に潜む恐怖とはこのことだろう。
はじめから、なんだか怖い雰囲気で読んでいても
緊迫感があり、読者は不安いっぱいで読み進む。
ひたひたと迫ってくる恐怖の描写も見事で
臨場感があり、映像で見ているように切り替えが見事だ。


最後の最後まで思いがけない展開があり
しかもやるせない哀しい終わり方が妙にリアルでもある。