「悪人」 吉田修一

悪人

悪人


福岡に住む若い保険外交員の佳乃は身分不相応のブランドバックを持ち
合コンで知り合った老舗旅館の息子であるかっこいい大学生が
気に入っていて頻繁にメールを送っているが相手にされていない。
友人達にはふたりは付き合っていると誤解をさせたまま
出会い系サイトで知り合った男性と会っている。


小さな頃に母親に棄てられ祖父母と住んでいる土木作業員の祐一は
車だけにはやたらとお金を掛けている。
出会い系で知り合った佳乃を三瀬峠でなりゆきで殺してしまう。


当時佳乃と付き合っているとみんなに思われていた大学生が
行方不明になったこともあり、彼が殺人の逃亡犯とされて
探され、祐一は日常生活に戻っていた。
そのうちにスーツの量販店で働く30才間近の光代と出会い
ふたりは恋に落ち、一時も離れたくない思いですごす。


祐一が殺人を打ち明けたときから二人の逃亡生活が始まった。


佳乃はどうしようもない虚栄心の強い女の子だが、
彼女のことをとても大切に思う両親がいて、彼女の死に泣きくれる。
祐一は年取った祖父母と暮らしていて、彼らにも愛され
祐一も彼らを大切にしているいい男の子だ。
祐一のことで心配しながら、祖母もマルチ商法にだまされて怖い思いをしたり
祖父は病院に入院していたり、大変な日々を送っている。


祐一はある意味とても純粋でまっすぐな素直な男の子だ。
時々何かが外れてしまったように暴力的になることや
切れてしまうことがあるが、それは不安でたまらないからだろう。
通っていたソープの女性を好きになり、彼女にお弁当を作って
ソープに行くときに持っていったりする女性なのだ。
彼の弱い部分もあって母性本能をくすぐられるような
妙に魅力的な男の子に私には映った。


最後は収束すべき事態に終わっていくのだが
なんだか切ない終わり方だった。


これは新聞小説だったらしいが、朝日読んでいるのに
ちっとも気付かなかったな〜。
吉田修一はやはりおもしろい。