「植物診断室」 星野智幸

植物診断室

植物診断室


高層マンションで暮らす40代の寛樹は
ベランダでジャングル状態のガーデニングを楽しみ、
むやみに放浪する散歩を愛する気ままな独身男だ。


周りと馴れ合ったりすることができずいる彼だが
やたらと子供にはなぜか好かれて、その特技を見込まれ
ある離婚女性の息子と時々会ってほしいと頼まれる。
彼女は夫の暴力で離婚したのだが、月に一度の面会で
夫の影響を受ける息子を心配して、タイプの違う男性に
会わせて夫に染まらないようにしたいと言うのだ。


恋人でも父親でもない役割を演じる彼だったが、
新鮮な思いでいつしか絆を結んでいく。


寛樹は植物をモチーフにしたセラピーを受けている。
自分が木や草になった気分になり、全身に喜びが広がるが
必ずあっけなく現実に引き戻され、その都度あんまりだと思う。
でもセラピストは毎回「あなたはあなた以外のなにものでもない」と
彼に言って送り出す。


彼は周りと関わりたくない訳ではなく、むしろ深く関わりたがるがゆえに
関係を継続できない。そして彼は彼以外のなにものでもないというのは
最初から最後まで根底に流れ続ける。


新しい大人の男性の役割というものに希望をもって話は終わる。
それはどういうものだろうか。