「恋愛小説」

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お酒がモチーフとなった恋愛短編集5編。
11歳年下の靴屋で働く男の子とつきあう真琴とその息子の話(天頂より少し下って)
妊婦の自分を置いて失踪した男を彼の実家で彼の母と待つ女性(夏の吐息)、
夫婦ぐるみで付き合う友人の夫との密やかな秘密(夜のジンファンデル)
お互いを大切に思うものの心が行き違う(アンバランス)、
ブランデーが大好きだった祖父の思い出を絡めて自分の恋愛を考える(アーティチョーク


「天頂より少し下って」は川上弘美の作品なのだが、出てくる男の子は
「柔らかげな子」で「いつも眠そう」なのがとても愛らしい。
しかもよそでは眠そうにはしていなくて、
彼女の前だと安心してそうなるという。そのくせ3年もつきあっているのに
いまだに触られると緊張すると彼は言う。可愛らしさが完璧だ。


「夏の吐息」(小池真理子)も失踪した彼はまだ生きていると信じて待ち続ける
けなげな様もちょっとじわっと来るが、失踪した理由はなんだろうと読後考えてしまった。


「夜のジンファンデル」(篠田節子)では葡萄のジンファンデルがアメリカ在住の
隆の家の庭にあり、それがキーワードにもなっているのだが、
その種を日本に持ってきて植えたらまるでタイプの違う葡萄になったというくだりが
あるのだが、本当だろうか? それにしてもジンファンデルがある庭なんて素敵。
恋愛未満のちょっとしたドキドキがあるが、大人の真っ当すぎる色気のない計算も
あとでばれてしらっとするのもリアルだ。


「アンバランス」(乃南アサ)もいい話だった。もう愛がさめたのかと
彼の行動のすべてがその理由に感じられる彼女だったが、彼の方は
大切な彼女のためを思えばこそ、仕事をしすぎたり、秘密をもったり・・・
誤解がいいタイミングで解けてめでたしになるが、取り返しがつかない場合もあるんだろうな。


アーティチョーク」(よしもとばなな)も主人公とボーイフレンドの関係がとてもいい。
お互いが一緒にいると人生が倍楽しめる感じで、感覚もぴったり。
こんな人と出会えたなら人生はすばらしい。


どの話も騒がしくない心地のいい恋愛小説でとても楽しめた。