「名もなき毒」 宮部みゆき

名もなき毒

名もなき毒


犬の散歩中の老人が突然死んだ。
途中のコンビニで買ったウーロン茶のパックに青酸カリが
入っていたためだ。そして青酸カリによる殺人は4件目となる。
孫娘の美知香は相続問題でもめていた自分の母も
警察から犯人と疑われていると知って知り合いの探偵に相談する。


大企業今多コンツェルン会長の娘婿となった杉村は
社内報の編集部で働いている。そこに入ったばかりの
アルバイトの女性、原田は問題ばかり起こしている。
みんなとのいざこざも絶えず、とうとう解雇することに。
だがその後も彼女は執拗に嫌がらせを続けてくる。
昔の彼女の職場で様子を聞いてみようと訪ねた杉村は
身分照会をその会社が頼んだと言う探偵を紹介される。


そこで偶然に美知香と知り合いになった杉村は
青酸カリの事件に巻き込まれていく。


宮部みゆきの本はひさしぶりに読んだのだが、
水をごくごくと飲むように、ひっかかりがなく、すいすいと進む。
読みあたりもよく、退屈もさせずに、やはりうまいな〜と思う。


ストリーテラーの杉村は、今多の娘婿となるものの出世欲はなく
おっとりとしたところがあり、バランスの良く取れた常識のある
男性でとても好感が持てる。


奥さんは今多会長の娘だが、外腹なので事業にはタッチさせられていない。
会社の仕事は義兄達がするという住み分けが出来ているため
兄妹の関係もうまくいっており、会長も彼女をとても可愛がっている。
経済観念は一般人とちょっと違っているところもあるが、
普通の感覚を持ったいい奥さんで、たまにお嬢様育ちの世間知らずの
ボケをかましてしまうところが、とても可愛らしい。


世の中に怒っている人や、憎んでいる人はかなりいるのだろう。
特に病気の老母を介護する外立少年の絶望感や怒りは
理解ができる。どうもがいても抜け出せないし、しかも
ほとんどのことは自分の責任ではなかったりする。
(親に棄てられたとか、住んでいる土地が汚染されているとか)
自暴自棄にならない方が難しいだろう。
まして若くて人生経験もない人ならなおさらだ。


元アルバイトの原田が次々と悶着を起こしては
杉村や広報室の人々に被害を加えていく様も読んでいて
とても恐怖感を感じた。こういったことは自分の身近にありそうで
またそれが怖さを倍増する。