「さくら」 西加奈子

さくら
しばらく家を離れていた薫が急に年末帰ろうと思ったのは
家を出ていた父が帰るという手紙をもらったからだ。


関西の実家は、陽だまりのように暖かく、平和な家族そのものだった。
働き者の父、美人の母、ヒーローのような兄、可愛くて乱暴者の妹。
小さな事件やちょっとした心を痛めることなども起きながら、
家族とともには、いつも愛犬のサクラがいて心を慰めてくれた。
ある日大きな悲劇に襲われるまでは・・・


どこかのサイトの書評で読んで、なんだか後半にとても悲しいことが
おきることの心の準備は出来ていたが、そしてストーリーテラーの
薫自身も兄の不在を仄めかして話は始まるのだが、やはり残念な展開。
一度はまるく収まりかけたと思わせた後だったので、急すぎて
しかもあまりにあっけなく、そっけなくて、逆にリアルなのかもしれない。


みんなはそれぞれ心に悩みを抱えていて、
それがかなりたいした問題である場合も多いのだが、
話が明るくユーモアたっぷりで進むので
重くならないで受け止められる。


お兄ちゃんは幼いころから完璧なヒーローで、あちこちで伝説を作るくらい。
弟の薫がそんな彼に憧れ、尊敬するのが素直に感じて、読んでいる私も
ヒーローである兄を好きにならずにいられない。


最後は家族が再生していくところで終わるので、読後感はとてもいい。
かなりヘビーな状況を乗り越えていくのだが、すごく自然体で気負いなく
そんなみんながとても素敵だ。


薫君もまわりに強烈キャラが多いから気づかれにくいが、
のんびりしていて、いい子だった。

好きにならずにいられない