「ケッヘル」中山可穂

ケッヘル〈上〉
ドーバーを望む海峡の町で偶然知り合った日本人男性に誘われ彼の経営する旅行社で働くことになる伽耶。彼女は夫の上司の代議士の妻と激しい恋をして駆け落ちをしていたが、彼女との関係に疲れ果て、一人で逃亡生活をしていたのだった。その旅行社は一風変わっていて、熱狂的なモーツァルティアンのみが顧客で、彼らの要望に最大限こたえる旅を提供している。しかし、自分が始めて受け持ったツアーで顧客が不可解な死を遂げる。そして次のツアーでも・・・


中山可穂の作品は以前「弱法師」がとてもおもしろかったのだが、ほかの作品は女性同士の恋愛を描くものが多く、いまいち手が伸びなかったが、これは図書館でふと手に取り興味を持ったので借りてみたが、とても面白かった。文章の表現の仕方などもとても美しく読んでいて気持ちがいいし、私好みだ。


上巻だけでも内容がとても詰まっていて、伽耶の話の他に、旅行社の社長の遠松の生い立ち、さらに彼の両親の話と盛りだくさんで、みんながみんな波乱万丈だ。下巻は途中もたつく感じもあったが、犯人を絞り込むあたりになると急速に展開して一気に読ませる。


逃亡生活から帰国した伽耶は、社長から鎌倉の彼の家に住んで猫の世話をするように頼まれるが、こそにはあらゆるモーツァルトのCDや彼に関する書籍があり、それ以外はピアノと猫。自然に囲まれた一軒屋で俗世間からすっかり離れた生活で、彼女はただモーツァルトを聞き、猫にえさをあげる日々をしばらく送る。こんな生活うらやましすぎと思いながら読んだが、その後の展開を思うとそこでモーツァルトについて勉強が必要だったのだろう。


さまざまなモーツァルトの曲が出てきて、CDで曲を聴きながら本を読みたいと思った。セットで売り出したらどうかしら?


殺人事件の真犯人と、美貌のピアニスト安藤アンナの本当の父親は意外だったが、あの人が犯人でなかったとわかり安心した。最後の終わり方も穏やかに美しくてよかった。