「海峡の光」 辻仁成

海峡の光
青函連絡船の客室係を辞め、函館少年刑務所の刑務官となった私の前に現れた受刑者は、かつて正義感あふれる優等生然としながらも陰湿に自分をいじめていた同級生の花井だった。圧倒的に強い現在の自分の立場に満足と喜びを覚えながらも、花井のことから目が離せない。


はたして花井は自分に気付いているのか? ここでも彼は模範囚だったが、花井の悪の部分を見つけることに私は固執する。そして花井を観察し続け、一喜一憂している私。だが花井は出所できる状態になると何かしか事件を起こしては、結局そこに残ってしまう。


花井は修行僧のように孤高で、落ち着き払い、美しくて暗い魅力にあふれている。いつでも私は彼を目で追ってしまい、心から追い払うことができない。こんな彼の妙な魅力に説得力があり、読んでいて自分も魅了された。決して明るくない話だが、潮の香りと差し込む薄い光を感じた。