「レディ・ジョーカー」 高村薫

レディ・ジョーカー〈上〉
大手ビール会社日之出の社長が営利目的で誘拐され、身代金の授受の前に開放された。犯人はレディ・ジョーカーと名乗り解放後企業と裏取引でビールと人質として莫大な身代金を要求する。警察にも真実を告げられなく裏取引に応じることにした社長には、同社の役員である義弟の娘が同和地区出身を理由に以前結婚の約束を反古した事実があり、その青年がなぞの交通事故で亡くなり、その父親の歯科医は日之出に脅迫状を送りその後自殺という過去を取引の材料にされていた。

犯人グループは自殺した歯科医の義父の村井、現役刑事の半田、施盤工のヨウちゃん、元信金職員の高、トラック運転手で障害者の娘を持つ布川で、彼らはもともとは競馬仲間だった。犯行は確実に進められ身代金も無事に手に入れ成功したかに見えたが、偽レディ・ジョーカーが現れ犯行を繰り返す。

警察では刑事の合田が早くから身内の犯行を疑い、組織の腐敗や馴れ合いなど色々な問題に直面しながら追い詰めていく。

同じ事件を日之出の幹部、マスコミ、警察、犯人側とそれぞれの目線で多角的に追っていくうちに、ある政治家に突き当たる。

上下巻二段の厚い本で、最初は延々と同和問題と競馬の話が続き、興味を引かない退屈な話で読みきれない不安に襲われたが、途中からだんだんと面白くなり、一気に読めた。
大企業と総会屋の実態、警察の実態(地検と警察はもっと仲良しかと思っていたが)、マスコミと警察内部のネタ元の付き合い方など、いろいろと興味深かった。
最後もすべてが解決に向けて流れていくようで、やはり勧善懲悪な終わり方をすっきるするような展開になっていないとこが、リアルな感じがしていい。

世の中に興味なく流されるように生きていたヨウちゃんが、村井に懐き食事をご馳走になったりちょくちょく家を訪ねる様子は父と子のようであり、また孫のようでもあり、最後に村井が故郷に戻ってからの生活でも暖かい展開になりよかった。

刑事の合田は趣味のバイオリンで何を弾くかと聞かれ、「チャイコフスキーパガニーニヴィエニャフスキ、ヴュータン以外でしたら、大抵のものは」と答えていたが、なんでチャイコフスキーパガニーニはだめなの???ってずっと疑問で(今も疑問だが)、それはやはり素人受けすぎてこっ恥ずかしいからだろうか。