「幸福な食卓」瀬尾まいこ

幸福な食卓
教師の父としっかりものの母、かっこよくて優しい兄、中学生の私は平凡で幸福な家族だったが、父の自殺未遂をきっかけに、母は家を出ていき、私は自殺未遂を思い出す梅雨時には必ず具合が悪くなり、父はある日「父を辞める」と言い出す。

兄の直ちゃんがいいキャラだ。スポーツも勉強も学校で一番できて、ルックスもよくて、優しい上に、しっかりしているような、ぼんやりしているようなところがいい。しかも「直ちゃんは軟弱だけど、物事を何とかする力には優れている」なんて完璧だ。「父を辞める宣言」をされても、うろたえることなく自然に受け入れる。

私の恋人の大浦君は単純で愛すべき男の子だ。ふたりのシーンで可愛くて気に入ったのは、いちいちキスするのに許可を得る彼にいらいらした私がなぜいちいち聞くのかと質問をしたところ、「身長差があるから、キスするまでのスパンが長いじゃん、そうすると、俺がキスしようとしてる間に、お前は逃げることも可能なわけだろう?逃げられたら俺ショックだし、前もって訊いておこうって思うの」ってか〜わい〜!

直ちゃんも私も恋を通して段々とひずんでいた家族の関係や心の傷が癒されてきつつあり、このままハッピーエンドが予想されるころ、驚くような悲劇が待っていた。
終わりのころに怖く悲しい出来事があることは、なんとなく知っていて読んでいたはずの私もやはり不意を突かれて動揺してしまった。まさかあんな結末とは・・・・

プレゼントを買うため一生懸命新聞配達をする大浦君に「がんばって」と言って励ました私がその言葉を後悔して「気をつけて」と言えばよかったと思うシーンに胸がつまる。
以前何かで言葉には相手を縛る力があるから、出かける人に「気をつけて」という言葉をかけることは相手を守ることになると読んだことを思い出す。